

「若手はSNSに詳しいから任せよう」
「子育て中の人材は重要案件を任せないことが配慮だ」
皆様のまわりでこのような声を聞いたことはありますでしょうか。
これらは典型的な「アンコンシャス・バイアス」のひとつです。
近年、企業の人事領域で「アンコンシャス・バイアス」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
昇進、アサイン、採用、評価など、重要な意思決定にアンコンシャス・バイアス=無意識の思い込みが影響すると、人材の活躍機会を狭め、組織の発展を阻害する可能性があります。
本記事では、アンコンシャス・バイアスの本質、誤解されやすいポイント、現場で起こりがちな弊害、そして実務で活かしやすい対策を整理します。
読み進めていただくことで
・人材活躍を阻む“見えにくい要因”を把握できる
・評価・配置・マネジメントの精度を高める視点が得られる
・組織の心理的安全性を高め、議論の質を向上させるヒントが得られる
ようになりますよ。
組織づくりに携わる方にこそ役立つ内容です。ぜひ最後までお読みください。
アンコンシャス・バイアスとは何か
アンコンシャス・バイアスとは:
自覚しないまま持っている偏見や先入観のこと。
つまり、「無意識の思い込み」を指します。
人は一日に3万回以上の判断をしているといわれ、そのすべてを丁寧に考えていては脳が持ちません。
そこで、人は「近道(ヒューリスティック)」を使い、状況を瞬時に判断します。例えば、
暗い道で大きな犬が近づいてきたら「危険かもしれない」と反射的に身構える行動
などは、アンコンシャス・バイアスが働いた例です。命を守るために必要な仕組みともいえるでしょう。
しかし、職場では必ずしも好ましい形で作用するとは限りません。
- 若い人材はSNSに詳しいはず
- ベテランは新しい手法に不慣れだろう
- 子育て中の人材は重要案件を任せにくい
などの思い込みは、本人の意欲や能力とは無関係に判断が下される可能性を生み出します。
興味深いのは、実績のある人ほどバイアスに陥りやすい点です。
成功体験が積み重なるほど「自分の判断は正しい」と感じやすく、いわゆる「成功者バイアス」と呼ばれる状態に陥ってしまうのです。
アンコンシャス・バイアスのよくある誤解
アンコンシャス・バイアスは、特に次の2つの誤解が広がりやすい傾向があります。
誤解①:バイアスは“悪”である
若手が提案した際、管理職が

「入社2年目だから実行は難しいだろう」
と発言した。すると、他の若手も提案をしなくなってしまい、プロジェクトそのものの進行が滞ってしまった。
特に場が悪い方向に進んでしまったときは、経験年数に基づく思い込み(この場合は「若手=経験不足」という思い込み)が悪目立ちしてしまいます。
しかし、本来バイアス自体は人間が生き延びるために備えてきた「心の省エネ装置」であり、善悪で語れるものではありません。
問題は、場面を選ばずに発動してしまうことによる弊害なのです。
誤解②:バイアスは意識すればなくせる
特に管理職の方は

「バイアスに気をつければいいのでは?」
とおっしゃることが多いものです。
しかし無意識で起きる思考のクセは、完全に消すことは難しいのです。
必要なのは、「自分にもバイアスが確実にある」のを前提に、場面ごとに補正する仕組みを持つことです。
アンコンシャス・バイアスが招く弊害
無意識の思い込みが放置された結果、組織におこる弊害としてよくある事例を2つ紹介します。
弊害①:人材の活躍機会を奪う
- 挑戦したいと手を挙げる新人に対し、「経験不足だから難しいだろう」と判断されてしまった。
- 子育て中の人材に配慮するつもりで、重要な案件から外してしまった。
など、意図せぬ形で人材の可能性を狭めてしまうと、彼らのモチベーション低下や離職を招き、組織にとって大きな損失となってしまいます。
弊害②:意思決定が歪む
会議で

「経験ある彼が言うことだから正しいのだろう」
と考える傾向が広がると、誰も異論を出さなくなりかねません。
その結果、議論が深まらず、市場ニーズの見誤りなど大きな意思決定ミスにつながってしまうこともあるのです。
アンコンシャス・バイアスを和らげる3つの工夫
アンコンシャス・バイアスを無くすことはできませんが、働き方や仕組みで補正することはできます。
現場に取り入れやすい3つの工夫を紹介します。
工夫①:問いの立て方を変える
質問の仕方を変えることで、思い込みが弱まることが多いです。
×「彼は管理職に向いているか?」
○「彼はどんな支援や環境があれば、管理職として力を発揮できるか?」
ソリューションフォーカストアプローチの考え方を活用した質問法です。
問題よりも未来の可能性に焦点を当てた質問で、次の一歩を探って行くのです。
工夫②:データと仕組みを活用する
主観に頼るほどバイアスが強まります。
・面接官を複数にし、スコアシートなどの客観的データを積極的に取り入れる
・会議で匿名アンケートやオンライン投票の仕組みを取り入れる
客観的データや仕組みを取り入れるほど、無意識の偏りを緩和できます。
工夫③:振り返りの習慣を持つ
・意思決定の後に「今の判断は思い込みではなかったか?」と問い直す
・会議の最後に「見落とした視点がないか」を確認する
無意識を意識に上げる訓練を積み重ねることで、組織全体のバイアス耐性が高まります。
メタ認知のトレーニングにもなり、「自分を客観視する力」を磨くことにもつながりますよ。
判断基準の違いが生むズレ
アンコンシャス・バイアスが起きてしまう原因は、個人の性格だけではありません。
実際には、仕事における判断基準の違いが影響するケースもあります。
心理学には「認知スタイル」という考え方があり、人が情報をどう受け取り、処理し、記憶し、判断するかの「クセ」を指します。
同じ情報を聞いても、解釈が分かれるのは認知スタイルの違いが大きく影響します。
- 自分の基準で判断するタイプ
成功体験が強いほど「自分の判断が正しい」と確信しやすく、自分と異なる意見の排除をしてしまいやすい傾向にある。
成功者バイアスに陥りやすいタイプといえる。 - 他者の基準を重視するタイプ
周囲の意見に流されやすく、同調圧力の影響を受けやすい傾向にある。
周囲のバイアスに流されやすいリスクがある。
つまり、アンコンシャス・バイアスを持つ人と持たない人がいるのは、判断基準の違いが原因のひとつであるといえるのです。
まとめ|無意識の思い込みに気づくことが組織の可能性を広げる
最後に、高村のまとめを整理します。
- アンコンシャス・バイアスは誰にでもある心のクセであり、成功者ほど成功者バイアスに注意が必要。
- バイアスを完全に消すことはできないため、質問の方法、データや仕組みの活用、定期的な振り返りによって補正していく姿勢が重要。
- 判断基準の違いを理解することで、意見の食い違いの背景が理解しやすくなる。
アンコンシャス・バイアスへの理解が深まることで、人材の挑戦を支援し、意思決定の質を高める組織文化が育まれます。
無意識の思い込みが存在する前提を共有し、補正する仕組みを整えることが、人材の可能性を広げ、健全で活力ある組織づくりにつながるのではないでしょうか。