

「全部のタスクが重要で緊急に感じられてしまう」
アイゼンハワーマトリクス(タスクを緊急度と重要度で判断する手法)を学び、使ってみても、全てのタスクが重要で緊急に感じられてしまうというご相談をよくいただきます。せっかく優先順位を付けてタスクをこなしていくよう考えていても、いざ机に向かえばチャットの通知や「至急」のメールに指が動いてしまうこともありますよね。
アイゼンハワーマトリクスとは:
アイゼンハワーが提唱した優先順位を整理するフレームワーク。重要なことと緊急なことは全く違うという考えのもと、業務を「緊急度」と「重要度」の2軸で4つの領域に分類する。

自分で決めたはずの優先順位通りに動けないのは、能力の揉んでいではなく、脳のバイアスや組織の環境、認識のクセなどの目に見えない罠にはまってしまっている場合があります。
本記事では、
・優先順位を見失わせる5つの心理・環境的要因
・優先順位を整えるための3つのポイント
について解説します。すべてが緊急で重要に見える錯覚から解放され、上司として注力すべき「未来の仕事」ができるよう、一緒に考えてみましょう。
上司「溜まったメールの返信と会議への出席だけで一日が終わってしまった」「人材育成や、業務プロセス改善に全く手がつけられていない」日々、組織の最前線で指揮を執る人事担当者や経営幹部の皆様のなかには、時間の使い方に関するジ[…]
優先順位を見失わせる5つの心理・環境的要因
優秀なリーダーであっても、特定の条件下では脳の判断機能が低下し、適切な優先順位付けが難しくなることがあります。優先順位がつけづらくなる原因を5つに分けてご紹介します。
1. 緊急性バイアスが働いている
人には期限があるものや通知がでているものに反応する傾向があります。「至急」「今日中に」など時間的な制限のある言葉や、チャットツールの赤い通知マーク、未読バッジなどを見ると、内容はさておき「すぐに処理しなければ」と焦りを感じた経験はありませんか。実際には翌週の対応・確認でよい件であっても、「緊急」というフラグが立っているだけで脳が「最優先事項だ(=緊急で重要な第1領域だ)」と錯覚してしまうのです。
緊急ではなく重要でもない(第4領域)のタスクだったとしても、緊急性バイアスが働くと、タスクが緊急で重要(第1領域)に感じられてしまい、結果として緊急度も重要度も低いタスクに時間を奪われてしまうのです。
2. 組織文化が「火消し」を評価してしまう
トラブル対応に走り回っているメンバーが「よく働いている」「頼りになる」と評価される組織風土はないでしょうか。もちろんそういうメンバーが優秀である側面もあるでしょう。しかし、トラブルに走り回るメンバーが評価される組織では、トラブルを未然に防ぐためにコツコツと改善活動をしているメンバーが目立たず、評価されにくい傾向があります。
「緊急対応できる方が評価される」状態では、管理職自身が緊急ではないが重要である(第2領域)タスクに時間をつかうことに罪悪感を覚えてしまい、部下の改善時間を確保できなくなる恐れがあるのです。
3. 「重要/緊急」の定義が曖昧である
「重要とは何か」「緊急とは何か」の基準が言語化されず、個人の感覚任せになっている状態では、優先順位をつけたくてもつけられません。上司にとっての「重要」が、部下にとっては「重要でない」と認識されている場合、組織としての力は分散してしまいますね。
「重要」と「緊急」の曖昧さを減らすために、基準を設けると判断しやすくなりますよ。
重要
- 長期的成果に影響するか
- 人の成長に関わるか
- 品質、安全、再発防止につながるか
緊急
- 期限が迫っている
- 影響範囲が広い
- リスクが大きい
4. 思考のクセが影響している
人にはそれぞれ、仕事における物の見方や考え方、行動のクセがあります。
iWAM(アイワム)ではそのクセを認識スタイルと呼んでいます。
例えば、
物事の細部にこだわる「詳細型」の傾向が強い方は、一つひとつの情報の正確性を重視する点がある一方、この傾向が強すぎるあまりに、全体像や大きな方向性を捉えるのが苦手な傾向がある。
全体像や方向性を捉えるのが苦手になる傾向がある結果、優先順位を付けづらくなることがあります。
他者の意見を重視する「外的基準型」の傾向が強い方は、周囲の意見や客観的データをうまく活用できる一方で、自分の判断だけで決めることが難しく、外部の意見に左右されてしまう。
外部の意見を重視してしまいすぎた結果、仕事の優先順位が揺れやすくなってしまうことがあります。
これらの認識スタイルに良い悪いはありません。まずは、「自分にはこんな傾向がある」と知ることによって、今後仕事を進めていくなかで注意をする意識が大切なのです。
5. マルチタスクと認知負荷による判断ショートカットが起きている
「チャットしながら資料を直して会議に入る」などの「マルチタスク」が常態化すると、脳は優先順位を判断するエネルギーを節約しようとします。結果的に、脳は考えること自体を拒否するようになり、緊急かつ重要(第1領域)なタスク以外の判断がしにくくなってしまうのです。
優先順位を整えるための3つのポイント
優先順位がつけづらくなる5つの要因は、無意識のうちに私たちの時間を奪っていきます。明日から実践できる優先順位を整えるための3つの対策をご提案します。
対策1:重要と緊急の基準を言語化する
個人の判断に頼る優先順位づけは、組織内に「認識の差」を生み、対応のばらつきが出る場合があります。組織内で優先順位の「重要」と「緊急」の定義を明確に言語化し、合意形成を図りましょう。
例えば
- 長期的な利益や人材育成につながるもの=重要
- 人材育成に関わるもの=重要
- 放置するとリスクがあるもの=緊急
- 期限が差し迫っている=緊急
などの共通の定義をつくり、個人の感覚によるブレや迷いを防ぐことをおすすめします。
対策2:緊急ではないが重要(第2領域)の時間を先にブロックする
重要なタスクや業務(第2領域)は、「時間が空いたらやる」スタンスではなかなか実行されません。
「毎週〇曜日の午前中は改善活動の時間にする」
「部下との1on1は絶対にずらさない」
など、先にスケジュールを確保しておきましょう。未来への投資につながるので、「空いたらやる」ではなく「先に入れる」スタンスにすると、多忙ななかでも部下育成の時間をとることができますよ。
対策3:自分の「思考のクセ」を理解する
「自身が細部にこだわりすぎていないか、あるいは人の意見に流されすぎていないか。」など、自分の判断の傾向を客観視することは、優先順位の付けやすさにつながっていきます。
自分の傾向を理解したうえで
「今、細部にこだわりすぎて視野が狭くなっていないか?」
「他の人の意見を聞きすぎて決めきれなくなっていないか?」
などと自問自答することが、冷静さを取り戻すスイッチになりますよ。
まとめ|緊急度と重要度の基準をチームですり合わせる
優先順位がつけられないのは個人の能力不足の問題ではありません。人間の脳が持つバイアスや、組織の文化、そして思考のクセが絡み合った結果として起きる現象です。
まずは、ご自身のタスクや仕事への取り組み方を客観的に振り返ることから始めてみてくださいね。アイゼンハワー・マトリクスを活用し、チーム全員で「重要・緊急」の基準をすり合わせるのも大切です。バラバラだった組織の基準を揃え、人材育成などチームの成長を支える未来への投資時間を確保できるようになるでしょう。
ぜひ、小さな一歩からはじめてみてくださいね。